ブラックボックス化するアーキテクチャ

前回のブログで書いたように、大学では「ネットワーク・コミュニケーション論」を担当している。アーキテクチャという概念をたよりに複数ウェブサービスを分析し、要素技術やサービスのもつ機能、あるいは接続デバイスによって私たちのコミュニケーションが色々と制約、影響を受けていること、そして逆に便利さや協働の可能性を高めていることを考える授業である。


さて昨日の授業のお題は「ブログ」であった。


学生に「ブログとは何?」と聞くと「日々の出来事を人に向けて書くもの」「芸能人や有名人が書いているウェブ上のコンテンツ」などといった答えが出るわけだが、授業は、その後RSS(フィード)、 パーマリンクトラックバックという3つの要素技術の話に流れていく。で、これらの要素技術が検索エンジンと親和的で、検索エンジンの結果の上位にブログが現れるようになったという話をする。つまりアーキテクチャが私たちの接触情報に強く影響しているという話。


昨日軽いショックを受けたのは、スマホのアプリでの(裏側にある)ウェブ利用が時間ベースで見ると主流になっているので、URLを見る機会も減っており、そもそもURLというものがなんだかわからないという学生が少しではあるが出てきたことである。RSSというのは「Webページの更新情報をページのURLリンクとともにプッシュで配信する技術」なんだが、その説明が伝わっていない感覚からそれに気づいた。仕方がないので、HTMLのソースをブラウザで見せながら、URI, HTTP, HTMLとティム・バーナーズ=リーの話を少しした。HTMLはアラビア語を見る感じ。自分のフィードリーダーを見せたが、未知の動物の化石を見るような感じ(少し大げさか)。


パーマリンクによってコンテンツとウェブページが一件一葉になったことで、検索エンジンが書かれたコンテンツを解析しやすくなり云々という話のあとに、「ツイートにもパーマリンクがありますよ」といったものの、その存在を知っているものは皆無であった。学生ということもあり、ネタや会話やともあれフロー情報なので、後からツイートを引用・参照するなんてこともないのだろう(か?)。


以上、これまでは、さまざまなサービスに潜むアーキテクチャの説明をするとわかっていた学生が、説明してもわからない学生へと変化しつつあるという話。逆に言えば、スマホというデバイスによって、より情報がフロー化している、あるいは情報を受動受信しているというストーリーは描けるわけだが。


これはこの先授業にゲストに来てくれる人のためにさっと書いたコンテンツ。

トケコミブログ

勤務先のコミュニケーション学部が持っているブログに書きました。
トケコミブログ: ネットでのコミュニケーションを考える授業

想定読者は高校生ですが、私の授業でとった「大学生のウェブサービス/アプリ利用状況」の簡単なアンケートの結果が載っています。

今日は台風の近づく中、AO入試をやっていますね。うちは特徴ある学部なんで、AOは機能しているんだよね。受験生、良いパフォーマンスを!

ソーシャルメディア上の沈黙の螺旋とスマートニュースへの期待

先日PewがSocial Media and the ‘Spiral of Silence’というレポートを発表した。米メディアでは話題になっているこのレポートのタイトルの「沈黙の螺旋」とは、自分の主として政治的な意見が自分のまわりの人びとと異なると判断された時に人はそれを表明しなくなるという現象で、ノエル・ノイマンによって指摘されたものだ。

沈黙の螺旋理論[改訂復刻版]: 世論形成過程の社会心理学

沈黙の螺旋理論[改訂復刻版]: 世論形成過程の社会心理学

Pewの調査では、スノーデンが暴露したNSAの通信傍受活動の是非がアメリカ人において二分していたゆえ、この話題に限って、それをどのような場面やメディアで話題にするかが調査された。その結果が次のグラフで、家族と夕食の場でそれを話すことに(まあ)前向きというのが75%、友人とレストランでという場合には71%。それに対してフェイスブックツイッターだと43%と41%と大幅に下がり、この2つのツールでは(論点が割れる)この手の(真面目な)話題の提供はなされていないと報告している。

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ソーシャルメディアは多様で、かつ時に少数派の意見が尊重され、議論される場になるのではという期待に違った結果で、少々残念ということだ。


ただしそもそもフェイスブックは議論のためのツールではないし(その投稿準備インターフェースは意見を論理的/理性的に述べるにはあまりに狭いし、元をたどればイケてるギャル発見ツールだったとさえ言える)、基本的に類は友を呼ぶの友だち、仕事での付き合いがあるまああまり不機嫌にさせたくない連中で構成されるネットワークだからこのデータは自然とも言える。


またツイッターにしても議論のためのツールではなく、さしたる意見を伴わない情報共有と、近しい友だちとの日常的なコミュニケーションのツールが2大利用目的である。そして前者にしても、あえて異なる指向性を持つ人をフォローしている人が多いかといえば、恐らくそうではないだろう。パリサーはその著書で投稿が時系列で並び、フェイスブックのようにアルゴリズムで表示コンテンツがコントロールされるよりもツイッターのほうが良いと言ったが、現実はそう甘くはないのではないか。

閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義

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実際Pewの調査でも、下のグラフのようにスノーデンの話をした場合、あなたの考えに相手が同意してくれると思うか、という割合は配偶者の86%は他に比べ高いとしても、親しい友だちだと74%に下がり、職場の同僚(64%)とフェイスブックの友人(63%)には差がない。つまり同意してくれるだろうと考えられてもフェイスブックでは投稿されない話題、別の言い方をすればその場に相応しくない話題、それがスノーデンーNSA問題なのだ。

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ではそういう意見が戦わされるフォーラムをネット上にでも作ればうまくいくかというとそれはUIやアーキテクチャだけではうまくいかないと僕は考えている(最近のG+のコミュニティってどうなんだろ)。現在の技術では、ちゃんとしたモデレータがいないとやはり沈黙の螺旋は起きるだろう。たかだが商品レビューの投稿だって、どういう理由で投稿するかという問いに対しては、「すでに投稿されたクチコミに共感するから投稿」のほうが「すでに投稿されたクチコミに違和感を感じるから投稿」を上回る結果が僕の調査結果では一貫して得られている。共感は普遍に寄り、違和感は多様性に寄る傾向があるだろうから、どうしてもある大勢に収斂していくし、それを人気ランキングアルゴリズムが強化する。


さて。というの話をした上で、このPewレポートを読みながら思いを馳せたのはニュースアグリゲータアプリのSmart Newsのことである。


創業メンバーの鈴木健とは15年来のつき合いだが、彼は昔からふさわしい情報をふさわしい人へということを考えていて、実際そういうウェブサービスの開発もしていた(STN=Social Trust Networkだったと思う)。それが浜本階生というパートナーを経て新しい会社を作ったわけだが、その第一弾サービスは http://www.crowsnest.tv/ であった。この見張り台という名のウェブサービスツイッターで「自分が=Ego」フォローしている人たちの間でよくリツイートされている記事をピックアップするもので、僕は今でも愛用している(ちなみにツイッターでは英語圏の専門家と専門ニュースソースを中心に60名フォローして、しかも2人以上にRTされたツイートを読むのが習慣。そうすると1日10ツイートにたいてい収まる)。


がしかし、「僕に気に入られるサービスはスケールしない」の法則通り、浜本&鈴木の会社にとっては「これじゃいかん」という事態になり、解析対象のネットワークをEgoからWholeに大きく広げて、マスメディアになろうというピボットの結果がSmart Newsである。核となる技術がそのまま応用できて、で、400万ダウンロードで、テレビCMも展開する会社になった。


Smart Newsが上のフォーラムのような場になるとは思っていないが、少なくとも強制的に「読むべきもの」を一覧で見せてくれる場にはなるのでは、という期待はある。Googleニュースというのもあるが、Smart Newsの場合、ツイッターで多くの人がRTした記事が抽出されているから、より人間的/民主的(衆愚的)である。これから行う僕らの分析で、どんな内容のものが、どんな理由でRTされるのかという結果が出てきたら彼らとは話をしてみたい。


かくいう僕はスマニューについては自宅のタブレットにしか入れていなくて、週に3回ほど開くだけのユーザーだが、「おいおいずいぶんナンパになったね」というのが14年年初の印象であった。昨夏にまだ10人規模だった同社を訪ねて浜本さんを鈴木に紹介してもらった時は「ヤフーニュースの層を取り込むにはソフト路線に行くしかない」と言っていて少々がっかりした。がしかし、最近はちょっと印象が変わってきて「少しハード路線に戻した?」というのがその印象だ。相変わらず「コラム」は健在だがww。この印象は単なる僕の勘違いかもしれないし、自分の閲覧端末がタブレットだからかもしれないし、年長者の藤村さんの見識なのかもしれない。


ちまたでは8月に36億円も資金調達したことが話題だ。その1つがAtomicoだったからRecodeでもExclusive: Twitter-Mining News App SmartNews Raises $36 Million from Atomico and Gree | Re/codeと取り上げられたけど、むしろその後に出たこちらの記事が興味深かった。スマートニュース鈴木会長、ロングインタビュー「公共性を担いたい」 - withnews


冒頭で「鈴木はもう会長になったのか!」と驚かされるこの長い記事の前半の調達プロセスやネイティブ広告の話は個人的にはどうでもよくて、最注目点は最後の段落での鈴木健はこの発言である。

メディアはいま、“300年くらいぶり”に大きく変化する時代にさしかかっていると思います。80億人のうち50億人がスマートフォンでニュースを読むことになる。これがもたらす社会的なインパクトは非常に大きくて、そこを担っていく存在になりたいと思っています。「公共性が高い存在」というところを認識しながら、ニュースアプリを運営していきたいです。


記事的には面白くないだろうということで、最後にちょこっとしか書かれなかったんだろうけど、実はこの記事のタイトルには「公共性を担いたい」とあるわけで、鈴木健はそこには意識的なんだと思う。「なめらかな社会」を500年先の読者に向けて書くぐらいだから。

なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵


そろそろ終わりにしようと思う。で、Pewの調査結果を見つつの僕からのSmart Newsへのリクエストはさしあたり以下。ニッチサービスになってしまわない程度に考慮して欲しい。

  • 現在のところメディアサイトでは無料で見ることのできないオピニオン記事の類をコンテンツに盛り込んで欲しい(そうしたら有料課金でもオッケー)
  • その上でオピニオン記事をある程度目につく位置に強制的に表示して欲しい(それはPlusではダメ)
  • 記事単位の伝搬ネットワーク構造も分析した上で、別々のクラスターで伝搬している事実記事をバランスよく対照的にかつ両方を読みやすいように表示して欲しい
  • 「おもしろ」ではなくて「読むべき」記事の抽出アルゴリズムの開発および精度向上(多分専門家ネットワークの抽出が必要になる)


ツイッターがこけるとスマニューもこけちゃうのかどうかはわからんけど(似たサービスに同社の技術は適用できそうだけど)、スマニューにはとーっても期待しています。その「公共性」を意識した大金の使い方に。

『つながりを煽られる子どもたち』

学生に紹介した手前、自分も手に取り、喫茶店で読みました。うすうす感じていたこともありましたが、他にも、いくつか知らなかった事実もあり、論理展開には概ね納得させられました。

  • 2000年代に入り、「友人や仲間に悩みや心配を感じる」人が増加傾向。そして同時に「充実感を覚える」人も増加傾向。
  • 16−19歳の「親友」「親友以外の仲の良い友だち」「知り合い程度の友だち」の合計値は2002年66人から2102年125人へ。最後のカテゴリーの伸びが大きい。そして、分散が大きくなっている。つまり使い分けされるような友人数における格差が拡大。
  • 拠り所となる価値観は消失し、回りの人からの承認の相対的重要さが上がる。だからあえて嫌われるようなリスクは取りづらくなる。したがっていつも一緒にいるメンバー(イツメン)とて、必ずしも心を許しあえる関係とはいえない。
  • 「自分がダメな人間だと思うことがある」高校生の比率は高まっている。
  • ティーンの子を持つ親の経験した環境と今の子の経験している環境は30年前の親子が経験した環境の差ほど大きくない。これが一面では親子関係の良好さの上昇に現れているが、それは親と子どもの間でも承認を求め合う関係となっているということでもある。そして親は子どもに「友人を大切にする人」になることを望む。
  • だから友だちにしろ親にしろ、「親友以外の仲の良い友だち」「知り合い程度の友だち」のマネジに注力する。質ではなく、量を増やしそこから「イイね!」の数を増やすという話。だからスマホ中心に「つながり依存」これは「コンテンツ依存」とは別。
  • ちなみに「自分には良い所がたくさんある」と思っている子どもの方がケータイ・スマホ利用時間は短い。家族が自分を信頼していると感じている子どもの方がケータイ・スマホ利用時間は短い。
  • いじめについて言えば、イツメンが予想外の行動をしたらどこでも起こりうるものになっている。明らかに異質な者に対するものではなく、危ないながらも均衡していたメンバーの調和が乱された瞬間どこででも起こる。