拡散コストの低下と人によるフィルタリング

インバウンド・マーケティングで有名なHubspotのDan Zarrellaが、リンクを含んだ270万以上のtweetsを、そのリンクがクリックされたかとそのtweetがリツイートされたかについて分析したようだ。ソースはTwitter Users Often Retweet Without Reading Or Clicking Links, Study Reveals


  1. tweetのリンクがクリックされた回数とRTされた回数の相関係数は0.038である。
  2. RTされたtweetsに含まれるリンクの14%はクリックされていない。
  3. 16%のtweetsはクリックの数よりRTの数が多かった。
  4. "retweet"という語を含んだtweetの場合、平均値の倍以上RTされているが、クリックは平均値より低い。
  5. "@"を含んだtweetの場合、RTされる率は平均値よりわずかに少なく、クリックは平均値の6割増し。

紹介したページは綺麗なインフォグラフィックにまとまっているのでぜひそちらもどうぞ。


1.にはまずビックリ。0.38ではないからだ。でも相関係数というのは比例関係を示す数値だから、クリックして読んでみたら拡散に値する話ではなかったのでRTしなかったというケースが多くなれば無相関になるのだろう。これはクリックされた数と同じだけRTされて相関係数が1になるよりは批判的で健全とも言えるわけだが、この数字の大きさの意味するところはわからない。


2.からRTされたものの86%はクリックされていることになる。複数回RTされても誰も(1度も)クリックされていないという定義ではなくて、1度RTされた場合にどれだけの割合でクリックされたかという定義だと思うが、これは想像値よりも高いので驚いた。ただし「読み終えた」割合はこれより低いことになる。当該ページを訪問して半分の人がそれを読んでいれば43%が読み終えた上でRTされているということになる。


さらに3.も2.と同じような数字で 84%はクリック数の方がRT数が多かったとなっている。きっとクリックされた時刻とRTされた時刻の関係を見れば、実際に「読み終えた」ケースの割合が見えてくるとは思うのだが。「読み終えて」いなくて一瞥をくれただけでRTというケースが実態は多いと思うが、人によるフィルタリングは思った以上に働いていると感じた。


余談だが、ここで冒頭記事のTwitter Users Often Retweet Without Reading Or Clicking Linksというタイトルが少し気になる。RTされたものの86%がクリックされているのなら"Often"というのは言いすぎと思う。中身まで読んでいるのが20%しかいないのならまあ"Often"でも良いのかもしれないけれど。


4.については5.との対比で感じるところがある。"retweet"という語を含む場合は恐らく日本語の「拡散希望」にあたるという仮定なんだろうけど、そうするとクリックされる割合は減って倍以上RTされるというのはつくづく人間というのは優しいね、無批判だね、と思ってしまう。僕はひねくれているからむしろそういうもののRTに慎重になるタイプだけど。これなぞは行為のコストが小さくなりすぎると、責任を感じるプロセスが少なくなって、情報量ばっかり増えることを示唆する。せっかく人によるフィルタリングはいい線行っていると感想を持った直後に、この数字を見て、拡散はかなりの程度コントロールできるものなのかという感想をここでは持つ。


それでも5.には希望を感じる。以前"Dark Social"という「切実な文脈」という記事でも書いたけど、指名ありの文脈ではよりtweetはクリックされるようになるというわけだ。ただしtwitterの場合、メールとはちがってフォロワーのフォロワーという見ず知らずの人が"@"で言及されているケースもかなりあるだろうが。


そして最後に目を引いたのはTwitter Users Often Retweet Without Reading Or Clicking Links, Study Revealsの結論だ。「希望を失ないなさんな。この結果はすべてが否定的な内容ではない」とした上で、 10 Twitter Power Tips That Guarantee More Retweetsという記事が紹介されている。ここでは記事を読んでからRTしてもらうという観点はほぼ語られていなくて、全てではないが、いかにRTしてもらうかというノウハウが書かれている。つまり人によるフィルタリングの有効性よりも物量による関心の争奪について書かれているものである。僕が希望を失うとすれば、むしろその点。


ソーシャルメディアは普通の人びとに発言の機会を与えた意味では素晴らしい。また思っていた以上にリンクをクリックしてからRTしている人も今回のデータでは多いことがわかった。でもRTの促進を狙う人びとの努力によって、判断なくボタンだけ押す人とそういったRTが増えれば・・・という話。結局のところメディアのビジネスモデル、メディアと広告という古い論点に行き着くわけである。