ちょっと気になるmuuk

たしか2006年7月にグリーの荒木英士さんにゲスト講師に来てもらった時のことだと思う。「もうSFCのキャンパスでもmixiのオレンジ色の画面ばかりなんですよ」と荒木さんが言うので、「じゃあ、一定期間その人のページを訪問することがなければ、自動的に友人関係を解消してしまう新しいSNSを作れば」と私は言った、ように思う。


その当時私はまだグリー派だったけど、けっこう友だち申請が来てしまい、「こりゃ、ゆくゆくさして読みたくもない人の日記の更新通知も来てしまうようになるな」としばしば感じていたからだ(当時のSNSは日記RSSみたいなものだったし、SNSユーザーも少なかったから、さほど親しくなくても友だち申請しないと友だちの数が増えなかったという事情もあった)。


荒木さんの返事は、「それはページビューとか会員同士のコミュニケーションの数にモロに影響するからできないですよ」というものだった、ように思う。まあ時代はまだまだPCだったからね。


そうしたらアプリの時代になってそういう新手のSNSがついに登場した。それも当時のグリーが蹴散らされたミクシィ社によって、しかもmixi IDとの連動性なしという実に潔い形で。muukである。


この記事

古い人間関係だからといって友達をリムーブするわけにもいかないし、なかなかリセットできない。であれば、誰も押せないそのリセットボタンを(アプリの仕様として)僕らが押しますよ、ということです

川崎裕一さんは言う。30日間連絡を取らない相手が自動的に友人ではなくなっていく。


ちなみにmuukは、「スマートフォンの背面と正面の両カメラでほぼ同時に撮影した2枚の写真で親しい友人とコミュニケーションするアプリケーション」である。そして写真もメッセージも読まれてから3秒で消える。こちらのコンセプトはSnapchatに近い。


私がよく考えられていると思ったのは、ここまで書いた2つを組合せている点である。ミクシィの中の人たちは「無価値無意味な写真をメッセージとともに共有してほしい」と言っているが、こと親しい間柄では、こういう写真やメッセージは実は有意味である。家族や恋人や親友など極めて親しい間柄だからこそ他愛のない会話が気遣いなくなされ、その他愛のない会話は親密さのサインともなり、いざという時に深刻な悩みが相談できたりするように思う。食卓での家族の会話を想像すれば良い。たぶんミクシィの中の人たちはそれをわかった上で、わざと「無価値無意味」と言ったのだと思う。


マネタイズは措いても、中学生から20代前半の女性にしかほぼ使われないように思う。これが私のmuukへの予想だが、予想の精度を競うつもりはなくて、純粋に親しい者との一見無意味で実はそうではないコミュニケーションに焦点を絞った、友人関係も消してしまうアプリがどの程度の人気を博すかはちょっと気になる(もっと意表を突いた使われ方をされることもあるわけだけど)。DL数だけではなくMAUやDAUも公表してほしい。


願わくば、このアプリによるオンライン・コミュニケーションのみならず、対面でのコミュニケーションの頻度も増え、上で取り上げたのとは違う、ちょいとあるいはかなり深い話も親しい人の間で展開されるようになることを望む。親友の「作り」にくい時代らしいので。でもその点については私は懐疑的である。