Twitterから見る文化差

日本のTwitter利用に関する調査を始めている。それで「Twitterはソーシャルメディアというよりも、ニュースメディアである」という通説とは異なる研究がないかなと頭の片隅に入れながら、芋づるで論文を読んでいったらこういう研究に出会った。
Cultural Dimensions in Twitter: Time, Individualism and Power


日本が外れ値として登場していて、興味深かったので紹介する。ちなみに上記通説は引用回数の多い下記研究(Kwak et al., 2010)による。ツイッターのデータが2009年なので少々古い。ただ6月の人工知能学会でIBMの方が2012年のデータをクロールして分析したところ、相互フォローの率、ネットワークの平均距離はほとんど変わっていないと語っていた(公開資料はなさそう)。でもIBMの研究では文化差には注目してはいないはずだ。というのも彼らの関心はHPC(High Performance Computing)と呼ばれるところにあるから。
What is Twitter, a Social Network or a News Media?


Ruth Garcia-GavilanesらバルセロナのYahoo! Researchの3人によるこの文化差研究は、2011年のツイートデータを、1. 生活のペース(Pace Of Life)、2. 個人主義と集団主義、3. 権力的不平等に対する認識(Power Distance)との関係で見てみようというもの。3つの項目についてはすでに数値化されたものがあるから、それとツイートデータから求められる数値の相関関係を30の国を対象に見てみるという手法だ。ちなみにデータは55,000のシードアカウントからはじめて、芋づる式に10週間にわたって30カ国、234万のツイートデータを収集している。


1つめの生活のペース(Pace Of Life)は、どれだけその国の生活のペースが速いかというもの。もう少し詳しく言うと、単線的な時間が流れている国か、複数の時間が同時に流れている国かというものでもある。既存研究から、米国、スイス、ドイツ、そして日本は生活のペースは速く、単線的な時間が流れている国とされている。仮説としては、こういった忙しい国では(フランス、イタリア、ギリシャ、メキシコなどの国とは異なり時間に対して柔軟ではないので)、決まった時間にツイートをするというものだ。


そして結果を示したのが下のグラフ。直線をみると右肩下がりになっていて、相関係数も-0.62と高く有意な結果が見られた。
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さて日本だが、右上の外れ値にある。すなわち、生活のペースは3番目に速いが、平日を5つの時間帯に分けて、どれだけ時間的にランダムに(逆に言えば定常的に)ツイートするかを見たところ、インドネシアについで2番めにランダムということが判明した。ちなみにドイツは日本と同じく忙しい国とされるが、ものすごく時間的にランダムな投稿が少ない。なんでもこの国はツイートへのメンション数が主要10言語の中で最小で、ブログへのコメントが非常に少ないという研究もあるそうな。


2つめの個人主義と集団主義についての結果が下のグラフ。仮説としては、集団主義の方が@(mention)を使って誰かと会話しているというもの(後述するが@の入っているツイートが会話的なものかについては筆者らも限界として認めている)。結果が下のグラフで、直線は右肩下がり。相関係数も-0.55で有意とされた。日本については個人主義指数が45ほどだが@(mention)を使ったやりとりの指数は大きい。こちらもインドネシア、ベネズエラ、メキシコに次ぐ指数の大きさだ。そしてここでもドイツがぶっちぎりの少なさ。
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最後の、権力的不平等に対する認識(Power Distance)のグラフを見てみよう。縦軸はフォロー数(入次数)の不均衡で、横軸はPower Distanceの指標となっているが、こんどは右肩上がりの直線で、相関係数は0.62でやはり有意となっている。
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見にくいが、日本は真ん中やや左の下の方にある。韓国の左下のスペインのそのまた左である。Power Distanceの指標は55ほどで、それほどフォロー数の不均衡はないようだ。なおこのグラフは「誰が誰をフォローしているか」のデータが縦軸である。彼らは「誰が誰を推薦しているか」「誰が誰をフォローしはじめるか」のデータでも分析しているが、この3つで相関係数が最も高いのは最初のものだ。ただし縦軸の数値の具体的計算方法はわからない。


ここでも特別な国として登場するのがインドネシアで、フォローが集まる人とそうでない人の差が大きいわけだが、これについては、インドネシアではブログトレンド(これが何を意味するのか不明)の27%が大衆文化や有名人に関するものという2011年の研究があるそうだ。この注目される巨大市場では有名タレントを起用したCMが多いのかもしれない。


以上を総合すると、日本人は、忙しいとされるにもかかわらず決まった時間にツイートするわけではなく、個人主義指標が中庸である割に他人とコミュニケーションをとるツイートが多く、Power Distance指標は中庸でそのような国の中ではフォロー数の不均衡はあまり起きていないという結果となった。


1つ目について、勝手に解釈してしまうと、決まった時間にツイートするわけではないのは、携帯端末が手許にあって何か刺激があれば反射的にツイートするからか。でも韓国が案外規則的に投稿しているのでやっぱり端末環境よりも文化差なのかと思ったりもする。


2つ目の結果は、少々調査手法に問題があり鵜呑みにできない。というのも@(mention)が現れるツイートには、かなりの数via@(サイト名)といったニュース記事をリツイートというものが含まれると考えられるからだ。それはコミュニケーション的な利用よりもニュースメディア的な利用と直結する。このあたりは現在企画している調査の結果から何か新しいことが言えるかもしれない。


3つ目の結果は少し意外。というのも日本もかなり有名人をフォローする人がかなり多いと考えていたからだ。実態はむしろ横軸の指数に比べて不均衡は小さいので、Ruth Garcia-Gavilanesらの言葉を借りれば「あまり有名でない人を支援する」傾向があるのかもしれない。あるいはツイート捕捉時期が2011年3月から5月なので、震災直後ということで普通の人のフォローが顕著だった時期と言えるのかもしれない。なお住んだことのあるアメリカで不均衡はややあり、一方フランスで権力的不平等に対する認識が比較的高い割にフォロー数の不均衡は小さいという点は実感と合う。


記述が雑ではありますがご容赦を。最後の部分についてはコメントがあれば欲しいところ。みなさん妄想してみてください。