ネットコンテンツでカイロスを

いわゆる「あとで読む」アプリであるPocketの2012年にまつわる興味深いデータを紹介した記事を見かけた。Why the Internet makes it hard to procrastinate


記事の結論は以下のとおり。

as the social web becomes ever more social, the Internet's pace will likely quicken: Our schedules will be moderated less by magazine publication schedules and TV air times and workday expectations and more by what our closest associates are up to. Our attention -- when it comes to content consumption, but when it comes to many other things, as well -- will be even more malleable than it is now.

ソーシャルウェブがよりソーシャル(人びとの関係性を強めるよう)になるにつれ、インターネットで流れる時間は速くなるだろう。私たちのスケジュールは雑誌の出版予定やテレビの放映時間、あるいは仕事のスケジュールから決まっていくものでは、しだいになくなり、私たちの最も近い仲間たちが何をしているかによって決まっていくものになるだろう。私たちの関心は、コンテンツ消費の時に、それだけでなく他のことについても同じように、現在よりもより柔軟に/(周りの人びとに)影響されやすくなっていくであろう。

それを傍証するデータとして使われているのが、図でもここに貼りつけたこの最も保存された長い記事がPocketに保存された/開かれた日時を表すデータ
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あのマイケル・ルイスによって書かれた14000語もある長い記事でさえ、Read it LaterとしてPocketに保存された回数のピークは公開後わずか1日後で、80%は最初の4日間で開かれ、3週間を過ぎると率的にはほとんど開かれないという話である。


Pocketによる元の記事には最も保存されたビデオとして、Gangnam Styleの3つのスパイクがありながら2ヶ月ほどかけてピークに到達するパターンも紹介されているが、こちらも保存された回数のピークと開かれた回数のピークの時差は数日だ。


Webの閲覧回数はおそらく今でもロングテール構造なんだろう。けれどもブログ時代に言われていたようなマスメディアではすぐに消えていってしまう話題が、それが重要なものであれば、ウェブではずっと議論されるという下の図に示された構造は残ってはいるのだろうけど、幾分うすれていることは確実だろう。ちなみにこの図は2006年に当時まだMorgan StanleyにいたMary Meekerが使っていたもの。これを今授業で示したら学生はずいぶんと違和感を感じるのではないかな。あるいは形は同じだけど、時間軸が数ヶ月から1週間とかになっているのかもしれない。f:id:sameo:20130103052511j:plain


引用した記事の英語部分について言うと、"malleable"のニュアンスが肯定的なのか否定的なのかがわからないが、僕自身は速さを伴って周りに影響されていく場面は限定したいと思っている。念のため言うと、嫌なのはSocialよりもQuickenである(Socialも得意ではないけど)。


昨年年頭にインフォメーション・ダイエットというポストをしておきながら、昨年は多くの場面でQuickになってきたネットに翻弄された感が自分でもある。Facebookとのつきあい方は夏以降ずいぶんこなれてきたが、いろいろなキュレーションサービスを試しすぎ、結果的に接触する情報量が増えてしまった。フロー情報の処理ばかりで、選りすぐりのコンテンツを読んで妄想するという時間が十分ではなかった。


ちなみにブログタイトルにあるカイロスというのは、古代ギリシア人が用いた主観的な時間のこと。それは客観的に計測可能で不可逆なクロノスとは別の自分だけの内的な(何か特別のことが起きる)時間のことだ。こういう時間を優れたWebコンテンツとともに経験したいというのが僕の望むものである。それはPocketにおいて07−11年までの4年間で1億7000万アイテムが保存されたのに対して、12年だけで2億4000万アイテムが保存されたのを見ると、多くの人に共通する願望のようにも思う。


もちろん記事をPocketで開いてきちんと読んでいるのかいな、というところに大きな疑問があり、そのあたりがこれから大きな社会的な課題になると僕は思っているのだが。ともあれ自分としては良い習慣をつけたいとまたしても年頭に思ったので一筆。全然目標が達成できなかったという告白でもある。