*[Web,Media]「明日のコミュニケーション」100×100×100で100万人を検証してみた

さとなおさんの「明日のコミュニケーション」を読んだ。ソーシャルメディアは「関与する生活者」が動くプラットフォームになった。というコンセプトはそうかもしれない。けど、全体的には論理が粗くて、実務担当者(この手のコンサルティングサービス提供者ではなく古い言い方では広告主側)は眉に唾をつけて読まないといけない、というのが感想だ。一方で、ファンや同業者が読んで元気づけられたり、ソーシャルメディア初心者が大まかな変化を知るには良いと思うけどね。


気になった箇所のうち、ここでは「100万人でなく100人に伝える」という部分を取り上げる。要はマスメディアで伝えるのと同じようにソーシャルメディアを利用することで100万人に伝えられる。しかもマスでの単発のコミュニケーションよりも、ソーシャルメディアで信頼できる友人から伝えてもらったほうが好感度も高いし、エンゲージメントもできるという話。


「100人のエバンジェリスト」はそれぞれのソーシャルグラフに対しておせっかいかつ積極的にその共感を伝えまくる、のだそうだ。だからそれぞれのソーシャルグラフのうち100人が彼ら(エバンジェリスト)のコメントをRTやいいね!し、それがまた100人ずつに伝わっただけで、100×100×100=100万人になるのである。

以上が彼の理屈。


読んでるそばから気になったのは最後の式の3つ目の「100」である。2段階を経て情報が到達した人に果たして100人もフォロワーがいるのか?ということである。


検証してみたのが下の2つの表。大きく4パターンあり、それぞれにRT率を変えた上下2パターンを用意した。
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左の表側のEはエバンジェリスト、Fはフォロワー。F1はエバンジェリストのフォロワーでF2はF1のフォロワー。F3はF2のフォロワー。「RT率」「RT数」「フォロワー数」はわかるだろう。「その段階での投稿数(小計)」は「RT数」×「フォロワー数」。「総投稿数」はその段階までの全部の投稿数である。


パターン1-1の上の行においては、Eには400人のフォロワー(F1)がいるが、F1のRT率は10%なのでF2に向かってF1 によってRTされる数は40となる。別の言い方をすると、400人のF1のうち40人だけがRTする。だから、F1によって投稿された投稿数(小計)は200×40で8000となる。総投稿数はこの8000にEによる400を加えて8400。以下同様。


ちなみにF2のフォロワー数は200人、F3のフォロワー数も100人に設定した。先にF2にフォロワーは100人もいないのでは、と書いたが、F2とF1の関係はおおむね水平的と考えてF2は200人して、F3 は100人とした。


注意しないといけないのは、この総投稿数はエバンジェリスト1人についての数字だから、企業が最初に100人のエバンジェリストにメッセージを発したら、総投稿数は100倍になる。なおエバンジェリストのRT率は100%としている。


では数字の検証。パターンは大きく4つ想定したが、まずパターン1-1から行こう。エバンジェリストはある企業のファンだが、まあ普通の人で、でもちょっと情報感度が高い人。とうことで、そのフォロワー数は400人にした。するとF3を経た総投稿数で、弱気(上段)の場合に16万8400、強気(下段)の場合に97万6400。なので、仮に100人のEに企業がメッセージを発したら1684万と9764万。わお。さらにF3からRTされる。右の1-2はEが有名人でフォロワーが1万人いた場合。こちらに至っては、表の総投稿数は421万と2441万なので、100人のEの場合は4億2100万と24億4100万。わおわお。しかもF3にもRTされる。


ただし上の表はRT率も高すぎ、フォロワー数も多すぎると僕は思っている。自分の感覚に従ったのが下の表で、やはり左はエバンジェリストが普通の人で、右は有名人というもの。僕の感覚としては、緑で色をつけた弱気パターンである1万が真実に近いのではないかというものだ。F2のフォロワー数は100人、F3のフォロワー数は50人、しかもRTはなくそこで止まるというモデル。右側のようにもしEに2000人のフォロワーがいたら総投稿数は5万。だからエバンジェリスト100人で100万~500万。


たしかに100万になった。が、以下大事な注意書き。


このモデルは同一人物が同じ投稿を何度も見ることを無視している。ソーシャルグラフは「類は友を呼ぶ」で均一ではないので(ネットワーク分析の世界では常識)、リーチ(到達人数)は総投稿件数よりも小さくなるはずである。みなさんも自分のタイムラインに複数回同じtweetが表示されるのをみたことがあるだろう。ということもあるので、パターン1-1でも9764万なんて数字が出る(日本のツイッターユーザー数の数倍)。数字が何分の1になるのかはしらないが(大きな行列ほどsparseになるが、数十分の1から数百分の1ぐらいか・・・)、twitterのネットワークがかなり分断的で、身の回りのクラスターだけでやりとしているという研究はたとえばこれ。
http://research.yahoo.com/pub/3386


さらに言うと、ここでの話はソーシャルメディアのユーザーがすべての投稿を読んでいるという仮定になりたっている。すべての投稿を読んだ上で拡散するという仮定。したがって、すべての投稿を読んではいないという条件を導入すると、やはり総投稿件数は小さくなる。このあたりがマーケティング・コミュニケーション的には知りたい数字になると思う(読んでない投稿を含めて投稿数の10%もRTするのかもしれないけれど)。


あと繰り返しになるがエバンジェリストの企業からのメッセージのRT率は100%である。これもありえない数字だろう。50%は超えるにしても。


以上を総合すると、エバンジェリストが100人ならば、元のメッセージが到達するのは3,4万人からせいぜい30万人ぐらいではないか、というのが僕の見解。同じ企業のファンだけど、交友関係がかなり異なるエバンジェリストが400人とか500人いたら、100万人に元のメッセージが届くかもねという感じである。つまり、さとなおさんの「100人のエバンジェリストで100万人」は少しばかり大げさではないかということになる。まあ僕のここでの論もかなあり大雑把だけどね。たしかにF1のフォロワー数10,000人という人が5名RTしたら総投稿数は一気に増えたりするわけで。


大雑把とはいえ自分としてはかなりスッキリした。数字には自信がないが、伝搬のメカニズムについてはかなり深い理解となったので。


もし間違いがあればご指摘を。またすでにわかっている数字があればお知らせを。なお、さとなおさんの「100万人」が間違っているという主張ではないので、そこのところは間違いなく。たとえば僕が思っている以上にRT率は高いのかもしれないし、400人なり500人のエバンジェリストがいれば100万人への伝達は可能なように思いますし、名の知れたブランド力のある企業であればRT率が上昇し500人のエバンジェリストで1000万人に到達させることは可能のように思います。